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アウトライン
分子生物学と遺伝子治療
関邦博
神奈川大学理学部教授
バイオバンク社取締役
生物とは
 生物が無生物から区別される一般的な特徴として、生物は、自己増殖能力、エネルギー変換能力、恒常性(ホメオスタシス)維持能力という3つの能力をもっている。
生物の個体は何らかの形の自己複製によりその祖先(親)から誕生し、そのほとんどは恒常性の破綻とともに死を迎える。その間の時間は、生物は外部から物質を取り入れ、その物質を体内で化学変化させ、そこから生じるエネルギーで自らの体の状態を一定に維持し、あるいは発展させ、不用な物質を外に捨てる。この誕生と死の間のエネルギーを変換しながら活動している状態が生きているということである。
細胞とは
 細胞(さいぼう)は生物の最も基本的な構成単位である。ウイルスを除き、全ての生物が細胞から成り立っている。生体物質としては構造や代謝に機能するタンパク質を含み、遺伝情報を担う DNA を持つ。他にはエネルギー源や情報源として脂質や糖質が含まれる。これらの生体物質は集合してより高次の構造をとっている。DNA は主に染色体として存在する。細胞には細胞分裂、遺伝子発現、代謝などの能力が備わっている。
"核小体(仁)、(2"
核小体(仁)、(2) 細胞核(cDNA)、(3) リボソーム、
(4) 小胞、(5) 粗面小胞体、(6) ゴルジ体、(7) 微小管、
(8) 滑面小胞体、(9) ミトコンドリア(mDNA)、(10) 液胞、
(11) 細胞質基質、(12) リソソーム、(13) 中心体
分子生物学とは
 分子生物学(ぶんしせいぶつがく、Molecular biology) は生物学の一分野。現在ではDNA分子を扱い、遺伝子クローニングや遺伝子導入など方法論を指す。
 本来、生命現象を分子レベルで理解して、それらがいかに制御されているかを研究することが、分子生物学の主な領域である。
ゲノム(genome)とは
 ある生物種が持っている遺伝情報全体のことで、遺伝子を含むDNAの全ての塩基配列情報のみならず、染色体の構造、繰り返し配列等の遺伝子ではない部分の情報なども含くまれます。

遺伝子(gene)と染色体(chromosome)の合成語(造語)で、「生命体のもつ全遺伝情報」いわば「親から子へ伝えられる生命の設計図」です。
ヒトを形作る分子レベルの設計図をヒトゲノムと呼んでいます。
染色体とは
 染色体(せんしょくたい)は、遺伝情報を担う生体物質である。塩基性の色素でよく染色されることから、1888年にヴァルデヤー (Heinrich Wilhelm Gottfried von Waldeyer-Hartz) によって Chromosom と名付けられた。Chromo- はギリシャ語で「色のついた」、-some は「物体」を意味する。
 ヒトの2倍体細胞は、22対の常染色体と1対の性染色体、計46本の染色体を持つ。性染色体の組み合わせは女性では2本のX染色体、男性ではX染色体とY染色体1本ずつとなっている。女性の2本X染色体のうちの片方は不活性化されている。
ヒトの染色体と遺伝子と塩基の数
人の染色体の情報
染色体番号 遺伝子(数個) 塩基対数(bp)    染色体番号  遺伝子数(個) 塩基対数(bp)
 1      2,610  2億7,900万      2      1,748  2億5,100万
 3      1,381  2億2,100万      4      1,024  1億9,700万
 5      1,190  1億9,800万      6      1,394  1億7,600万
 7      1,378  1億6,300万      8       927  1億4,800万
 9      1,076  1億4,000万      10       983  1億4,300万
11      1,692   1億4,800万      12      1,268  1億4,200万
13      496   1億1,800万       14      1,173   1億0,700万
15       906    1億0,000万        16       1,032    1億0,400万
17     1,394       8,800万        18          400       8,600万
19     1,592       7,200万        20          710       6,600万
21        337       4,500万        22          701       4,800万
 X      1,098    1億6,300万         Y          78       5,100万
DNAとは
 デオキシリボ核酸(-かくさん、DNA: Deoxyribonucleic acid、デオキシリボヌクレイック・アシッド)は、核酸の一種。
高分子生体物質で、地球上のほぼ全ての生物において、遺伝情報を担う物質となっている。
 DNA はデオキシリボース(糖)とリン酸、塩基 から構成される。塩基は4種類の化学物質アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)あり、それぞれ A, G, C, T と略す。二重らせん構造をとり、片方がAだと相手は必ずTになり、Gの相手はCになる。A=T,G=Cの塩基対となる。30億個の塩基対が一つのcDNAを構成している。
 動物細胞の直径は10ミクロン程しかないが、その中のDNAをつなげてまっすぐに伸ばすと2メートルにも達するため、普段は非常に高度に折りたたまれている。
塩基配列とは
 生物学における塩基配列(えんきはいれつ)とは、DNA、RNAなどの核酸において、それを構成しているヌクレオチドの結合順を、ヌクレオチドの一部をなす有機塩基類の種類に注目して記述する方法、あるいは記述したもののこと。
 塩基(えんき)とは化学において、酸と対になってはたらく物質のこと。一般に、プロトン (H+)を受け取る、または電子対を与える化学種。DNAではアデニン (A) 、グアニン (G) 、チミン (T) 、シトシン (C) の4種類があり、RNAでは、チミンのかわりにウラシル (U) になる。( )内は、各塩基の一文字略称である。
DNAと遺伝子の違い
   遺伝子とは、生物の遺伝的な形質を規定する因子であり、遺伝情報の単位とされ、DNAの塩基配列の中でタンパク質を作る所をいう。遺伝子以外のところは、ジャンクという。遺伝子の部分はDNA全体の30%を占めている。

ある生物種の遺伝子の総和はゲノムと呼ばれ、ゲノムや染色体上の遺伝子の位置を示したものを遺伝子地図や染色体地図と呼ぶ。遺伝子は転写される構造遺伝子と、転写の制御に関わる調節領域から構成されている。
  遺伝子は、遺伝情報の最小単位として取り扱われ、その単位は、1つのタンパク質の情報を基準としている。遺伝子は、タンパク質のアミノ酸配列情報が書き込まれている構造遺伝子のことをさしている。
遺伝子(gene)とは
 遺伝形質を規定する因子。DNAの中でタンパク質を作る部分を遺伝子という。染色体上のある長さをもつ特定のATGの塩基で始まる区画をいい、その中にエキソン、イントロン、転写調整域の部分をいう。遺伝子は平均3万個の塩基対を持っている。
それぞれ決まった動物になるための「種」の遺伝子を持っている。
気の遠くなるような時間を経て、しかも生き残りを かけて作り上げられたその「種」の遺伝子が、それぞれの環境に適合し、生き残ってゆくための本能やからだの形を作り上げている。
 ヒトの遺伝子は22,287個ある。
タンパク質
 タンパク質とは、プロテイン (protein) ともいい、L-アミノ酸が多数連結(重合)してできた高分子化合物であり、生物の重要な構成成分のひとつである。
タンパク質は炭素、酸素、窒素、水素(重量比順)を必ず含む。どのようなアミノ酸から構成されているかによって、組成比は多少異なる。しかしながら、生体材料においては窒素の重量比が16%前後の値をとることが多いため、窒素量Nの6.3倍を粗蛋白量と定義する。生体のタンパク質を構成するアミノ酸は20種類あるが、それが連結すると約20の20乗の天文学的数字になる組み合わせができる。
タンパク質は遺伝子の配列により決定される(3つの塩基配列により、1つのアミノ酸が指定される。例えばAUG=メチオニンというアミノ酸指定される)。
同じアミノ酸の配列からなるタンパク質でも、立体構造(畳まれ方)によって機能が変わるということである。たとえばBSEの原因となるプリオンは、正常なプリオンとは立体構造が違うだけである。なお、多くのタンパク質では、熱や圧力を加えたり、溶液の pH 値を変える、変性剤を加えるなどの操作により二次以上の高次構造が変化し、その機能(活性)を失う。
アミノ酸
アミノ酸(-さん, amino acid)とは、アミノ基とカルボキシル基の両方の
官能基を持つ有機化合物の総称である。
生体の蛋白質の構成ユニットとなる「α-アミノ酸」を指す。
生体の蛋白質は α-アミノ酸のポリマーであるが、基本的に L 型のものだけ
が構成成分となっている。以下の20種類のアミノ酸からなる。
アラニン、 アルギニン、  アスパラギン、 アスパラギン酸、 システイン、
グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、
ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、
スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン。
ヒトでは、一般に次の8種類が必須アミノ酸に含まれる。
トリプトファン
リシン(リジン)
メチオニン
フェニルアラニン
スレオニン
バリン
ロイシン
イソロイシン
ヒスチジン(乳幼児期のみ、このヒスチジンが追加され9種類となる)
遺伝子検査とは
従来の生化学的検査や組織学的検査ではな
く遺伝子の変異を検出することにより疾病
の診断を行うことです。
遺伝子の塩基配列を決定することにより遺
伝子診断ができます。
遺伝子治療(いでんしちりょう)とは
 異常な遺伝子を持っているため機能不全に陥っている細胞の欠陥を修復・修正することで病気を治療する手法である。ベクターウィルスを使って正常遺伝子を導入する手法がとられている。
 ベクターを注射、吸入、塗布などで患部組織に注入するか、患者自身の血球などを一度取り出し、体外でベクターを作用させてから、患者に戻す方法がある。
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"近年、様々な疾患に遺伝子が直接..."
 近年、様々な疾患に遺伝子が直接・間接に関係していることが分かってきました。
そこで、遺伝子を「薬」として使い疾患を治療する方法が考えられました。それが「遺伝子治療」です。
世界初の遺伝子治療は、1990年に米国で先天性代謝疾患のADA欠損症(重症の免疫不全を起こす)の患児に行われました。
国内では1995年以来、ADA欠損症、何種かの癌などに対して、実験的に実施されています。

ヒトのからだは約60兆個の細胞からできています。
全ての細胞内にDNA(核)が存在し、その核内には決まった数の染色体が存在します。
染色体は4種類の塩基からなる2重らせん構造をしたDNAが何重にも折り重なってできています。
この細長いDNAの決まった領域に遺伝情報が含まれており遺伝子と呼ばれています。
ヒトのDNA上には22,287種類の遺伝子があります。
これらの遺伝子の持つ遺伝情報によって、それぞれ決まった「数」と決まった「型」の細胞になり、
からだの組織や臓器をつくりあげているのです。
"DNA上の遺伝子領域に異常があれば..."
DNA上の遺伝子領域に異常があればそのまま間
違った情報が伝わり異常なタンパク質が作られて
しまいます。異常なタンパク質を持った細胞は正
常な働きが出来ません。
つまり疾患やがんになってしまうのです。
からだの中の細胞にはヒトの遺伝子しかありませ。
しかし、病原微生物に感染すると細胞の中に細菌
ウイルスなどのDNAが見つかります。
特定の遺伝子を調べることによって悪性腫瘍の診
やその悪性度を調べることが出来ます。
将来がんになる可能性もある程度推定できます。
"臨床医学で用いられている遺伝子..."
臨床医学で用いられている遺伝子検査には、
以下のようなものがあります。
1.感染症の遺伝子検査。
2.遺伝病の遺伝子検査。
3.造血器腫瘍の遺伝子検査(白血病など)。
4.固形腫瘍の遺伝子検査(肺がん、乳がん等)。
5.遺伝子多型解析。
これらの遺伝子検査は、病気の種類決定やがん
などの悪性度を推定する貴重なデータとなります。
そしてこのデータをもとにその人に最も適した
治療(遺伝子治療など)が可能になってきます。
遺伝子検査によって「がん」「アルツハイマー」
などの関連遺伝子が異常を起こしている部位の
塩基配列が詳細に解析できます。
発癌物質とWHO
世界保健機関(WHO)の下部機関である国際がん研究機関(IARC)は、ヒトの疫学調査あるいは生物学的知見および動物実験結果に基づいて、純物質、混合物、生活環境の発癌性リスクを評価し、定期的に勧告しています。
IARCは、発癌性リスクを以下のように分類しています。
Type1  :人に対して発癌性がある。
Type2A:人に対しておそらく発癌性がある。
Type2B:人に対して発癌性があるかもしれない。
Type3  :人に対する発癌性については分類できない。
Type4  :人に対しておそらく発癌性がない 。
発癌ウイルス
Type1に属する発ガン性のあるウイルスに以下のようなものがあります。
EBウイルス (Epstein-Barr virus) - バーキットリンパ腫
B型肝炎ウイルス (Hepatitis B virus; HBV) - 肝がん
C型肝炎ウイルス (Hepatitis C virus; HCV) - 肝がん
ヒトパピローマウイルス16型 (Human papillomavirus type 16; HPV-16) - 子宮頸がん
ヒトパピローマウイルス18型 (Human papillomavirus type 18; HPV-18) - 子宮頸がん
ヒトTリンパ球好性ウイルス1型 (HTLV-1) - 成人T細胞性白血病
IARC発癌性リスク評価: Type2A (おそらく発癌性がある)
ヒトパピローマウイルス31型 (Human papillomavirus type 31)
ヒトパピローマウイルス33型 (Human papillomavirus type 33)
カポシ肉腫関連ヘルペスウイルス (Kaposi's sarcoma herpesvirus; KSHV / human herpesvirus 8) - カポジ肉腫
IARC発癌性リスク評価: Type2B (発がん性が疑われる)
ヒト免疫不全ウイルス (Human immunodeficiency virus type 2; HIV-2)
ヒトパピローマウイルス (16, 18, 31, 33型以外)
HPVのワクチン
 米国メルク社より尖圭(せんけい)コンジローマと子宮頸癌の原因ウイルスであるHPV6,11,16,18型のワクチン「商品名GARDASIL(ガーダシル)」が開発され、2006年6月にアメリカ食品医薬品局(FDA)で承認された。
 2007年オーストラリア政府は、無償でHPVワクチンを全女性に接種することにしました。
 日本でもHPVワクチン接種を実施されており1回7万円の費用がかかる。日本では、年間約7000人が新たに子宮頸癌と診断され、約2400人が同癌で死亡しているという。子宮頸癌は、世界の女性のガンによる死亡原因の第2位で、年間50万人が子宮頸癌と診断され、約30万人が死亡しています。
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"関連遺伝子の間違った塩基配列..."
関連遺伝子の間違った塩基配列に対して、正しい
塩基配列を示す遺伝子を体内へ導入して正常なタ
ンパク質を合成できるようにしてあげようとするの
が遺伝子治療です。遺伝子はそのままでは体内
には導入できませんので、ベクターという特殊な
遺伝子を運んでくれるものを使用します。
現在では遺伝子検査を行うことによって病気の詳し
い原因を調べ、その病気に合った新しい薬や治療
を開発することが可能になってきています。
また、病気になった人の体質を調べてその人に
最も適合した薬や治療を行うことが可能になって
きたのです。まさにその人だけに合ったオーダー
メイドの医療です。
p53遺伝子とは
 
p53遺伝子は、最もよく知られている癌抑制遺伝子です。
p53のpは蛋白質(protein)、53は分子量53,000を意味し、393個のアミノ酸から構成されています。
人間のp53遺伝子は、第17番染色体短腕上(17p13.1)に存在し、
この遺伝子は進化的に保存されており、昆虫や軟体動物にも存在しています。ただしそれらのアミノ酸一次配列はかなり多様化しています。またパラログとして p63 や p73 もあります。
細胞が癌化するためには複数の癌遺伝子と癌抑制遺伝子の変化が必要らしいことが分かっていますが、 p53遺伝子は悪性腫瘍において最も高頻度に異常が認められています。
何らかの原因でp53遺伝子が損傷を受けると、G1期細胞増殖が停止できなくなり、細胞にアポトーシスが誘導されにくくなります。 p53は、細胞の恒常性の維持やアポトーシス誘導といった重要な役割を持つことから、ゲノムの守護者 (The Guardian of the genome) とも表現されています。
結 論
    遺伝子がヒトを支配していると思われてきましたが、遺伝子は環境により変化します。
    環境により変異した遺伝子を修復しなければなりません。
    遺伝子検査は、どれだけ遺伝子が変異しているか調べることです。
    変異している遺伝子を修復するのが遺伝子治療です。
    日本やアメリカでは遺伝子治療は、政府の認可のもとでしかできませんが韓国では可能です。
まとめ
遺伝子治療には2つの方法がある。
ex vivo法とは、患者から治療の標的細胞を採取して体外で目的遺伝子を導入して再び患者の体内に戻すこと。
In vivo法とは目的遺伝子を直接生体内に投与すること。
遺伝(いでん)とは、生殖によって、親から子へと形質が伝わるという現象のことであり、生物の基本的な性質の一つである。
親子に似通った点があれば、遺伝によるものだ、という言い方をする。遺伝現象は古くから知られていたが、遺伝する形質(表現型)は交雑とともに混じりあっていくと考えられていた。メンデルはエンドウマメの形態に注目して交配実験を行い、形態の遺伝が一対の遺伝粒子を仮定することで説明できることを発見した。染色体は DNA やタンパク質から構成されており、アベリーやハーシーらの実験により DNA が遺伝情報を担っていることが明らかにされた。ワトソンとクリックらによるDNAの2重らせん構造の発見後は、DNA上にある遺伝子の物質的な側面からの研究が発展し分子生物学とよばれる研究分野が開拓された。遺伝子の機能の解析は生物学のほとんどの分野と関係がある。
生物学の方法論においては、遺伝子操作や突然変異の解析によりその機能を調べるアプローチ(遺伝学的手法)を遺伝学と呼ぶことが多い。遺伝学的手法は二通りある。突然変異体の表現型に注目して、その原因遺伝子を同定し、機能を明らかにしていく古典的な正の遺伝学 (forward genetics) 、逆に遺伝子を先に単離し、遺伝子破壊等の手法を用いて機能を調べる逆遺伝学 (reverse genetics)である。前者をヒトに応用した疾患の解析方法が連鎖解析や関連解析である。多くのメンデル型疾患において連鎖解析によって原因遺伝子が特定され、診断や治療に寄与している。また後者はPCRやシーケンサーといった技術の進歩によって近年盛んになってきた手法であり、特定の機能を有するタンパク質を同定し、その表現型から予測される疾患との関連を調べる手法である。
 動物も植物も、あらゆる生命体は細胞からできている。あらゆる細胞の中に、細い糸状のDNAと呼ばれる情報分子が入っている。ヒトには約60兆個の細胞があるが、その一つ一つに、太さはわずか2ナノメートル(10億分の1m)だが、長さは2mにも達するという細い細い糸状物質がたたみこまれて入っている。
 この糸状物質は、デオキシリボ核酸(略してDNA)と呼ばれる生命物質でできているが、この物質を構成している塩基分子の配列そのものが、遺伝情報になっている。その配列は基本的にATGCの四文字で表現され、その一つ一つの文字の組み合わせがタンパク質の原料であるアミノ酸に対応している(第一図参照注)。
 その総文字数、ヒトの場合約30億。これが生命活動の全プログラムで各細胞に同じものがワンセット入っているが、それぞれの細胞がプログラムの違う部分を読みときつつ、ちがう活動をしていく。その総和がその人の生命活動そのものなのだ。
 プログラムの基本は、それぞれの細胞がいつどのようなタンパク質を作るべきかの指示である。つまり遺伝情報とは手っ取り早くいえば、タンパク質の構造情報(構成分子たるアミノ酸の配列情報)なのである。その情報の中に、その生物の生命活動のすべて(構造だけでなく機能発現の指示も)が秘められている。
 生命活動のすべてが、しかるべきときにDNA上の特定の遺伝情報を読み出し、それに従って、特定のタンパク質を作り、その指令で特定の生命反応が進むという形で進行していく。 タンパク質というとき、肉魚に含まれる栄養素としてのタンパク質をすぐに想像するとまちがう。
 あのような構造タンパク質もタンパク質だが、もっと大切なのは、生命活動の仕切り役である機能タンパク質である。あらゆる生体のあらゆる生命活動が、酵素と呼ばれる機能タンパク質の働きで進行していく。
 その機能タンパク質も、DNA上の遺伝情報の読み出しで、しかるべきときにしかるべき内容のものがしかるべき量だけ作られていく。そのようなDNA上のひとまとまりのタンパク質生産情報が、遺伝子と呼ばれるものの本体である。
 生体は、約2万2千個の遺伝子(ヒトの場合)によって作り出された沢山の機能タンパク質によって仕切られた無数の生化学反応の集積体である。生体はDNAのプログラムで常時ダイナミックに活動しつづけている分子マシーンなのである。
生物の生命活動は、遺伝情報を担うDNAと遺伝情報が発現したタンパク質により維持されている。DNAの情報は複製(replication)されて、親から子へあるいは細胞から細胞へと伝えられる。また、細胞内ではDNA上の特定の遺伝子の部分がタンパク質に翻訳(translation)されて、細胞のはたらきが行われる。翻訳とは、4種類の文字からなるDNAの文字列を20種類の文字からなるタンパク質の文字列に変換することで、コドンと呼ばれるDNAの3文字を単位としてアミノ酸1文字に変換される。64種類のコドンと20種類のアミノ酸および翻訳停止信号を対応づけるのが遺伝暗号(genetic code)がある。この変換の際、DNAの情報は直接タンパク質に翻訳されるのではなく、いったんRNA(ribonucleic acid)に転写(transcription)され、RNAからタンパク質に翻訳される。RNAについては、転移RNAやリボソームRNAなど異なる役割をするものもあり、ここでのRNAはとくにメッセンジャーRNAと言う。したがって、DNA、メッセンジャーRNA、タンパク質のあいだには、情報の一方向の流れがあることになる。クリックは1958年これを分子生物学のセントラルドグマ(central dogma)と名づけました。
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高血圧遺伝子
 エール大学医学部、ハワード・ヒューズ医学研究所(HHMI)のRichard Lifton博士らは、第12番染色体上のWNK1と第17番染色体に上のWNK4という2つのヒト遺伝子を同定し、このどちらかの遺伝子に変異が生じると偽性低アルドステロン血症II型(PHAII)という遺伝性の高血圧症を引き起こすという可能性を示唆した。この希にしか見られない病気は、よく耳にする「本態性高血圧」と共通するいくつか性質を持っている。本態性高血圧は、米国では推定5千万人の患者が存在し、おそらく世界の成人人口の4分の1が罹っていると思われる疾患である。